24「事業初日」

 庄原からの帰り道、山中の道に差し掛かるとヒグラシの音が覆いかぶさってきた。それを合図にクーラーを切って窓を全開にする。道路端の温度計は27度、少し湿気のある空気が混じり気持ちよい。行く先に見える山と少し赤みがかってきた雲を見ながら、自然と九州電力の新規事業のことを考えていた。

 本件は前々から事あるごとに触れてきた。福岡に本社を置く九州電力株式会社が、農産物流通の新規事業に乗り出すことを決め、その事業検討の際にまごやさいに視察に来られた。その後も何度かの再視察や実証実験などを経て、結果的に弊社のMAGO-NETを活用した事業となった。初回の視察が昨年8月、そして7月9日(月)、「OSUSO」という名で事業はスタートした。

 福岡の脇山と香春の2拠点で地元の野菜(主には中小農家)を集荷し大橋の本部に集積、福岡市内の飲食店に自社配送する仕組みだ。事業モデルはまごやさいと非常に近いが、まごやさいは未だ1拠点で全て行っているので、既にOSUSOが先行したことになる。

 そして初日、のっけから50種を越える野菜が出荷された。まだ不慣れな状況下、現場は農家さんの対応に大変だったのではないかと容易に想像できる。それは嬉しい忙しさでもあろうが、この事業の要諦は出荷された野菜に個別の情報を付与し、素早くシステムに掲載して、顧客(飲食店)に販売できる状態を作ること。通常まごやさいではだいたい13時までには全ての野菜を掲載し終わるが、OSUSOの初日は夜まで掲載にかかったようだった。

 この日、OSUSOの皆さんと随時連絡を取りながら、僕が初めてネット販売した日を思い出していた。当時は個人向けの販売に主眼を置いており、自宅の居間にパソコンを据え、システムを開発してくれたちゃネットのメンバーと、友人にも無理を言って来てもらい、プレスリリースまでして奇跡的にNHKや中国新聞でも紹介され、準備万端で販売開始!。。。。するはずだったが、写真のアップロードに非常に時間がかかり、遅々として掲載が進まず、結局全て掲載し終わったのは21時を回っていた。

 その間の焦燥感といったら、、、。おそらくそれ相当の方が見ていたはずで、注文しようにも野菜は無く「何だこれ?」と諦めてもしくは見限られて二度と訪れてくないのではないか、そんなことばかり考えていた。結局買って頂いたのは4人、想定の半分以下だった。

 OSUSO2回目の出荷日。この日はなんと80種を越える野菜が集まった。その日、まごやさいは150種、2日目にしてまごやさいの半分以上になった。これは想像以上、掲載は前回より更にヤバいかもという僕の心配をよそに、夕方には掲載が終わっていた。さすがの対応力、キャッチアップの早さ。前回の反省を元にかなり業務を見直されたようで、それを即時遂行できるのはすごい。

 あっという間にまごやさいは周回遅れにされそう。これは更に頑張らなくては。

 てなことを考えていたら、いつの間にか平地の道路に差し掛かっていた。ヒグラシの声はアブラゼミとニイニイゼミにかき消され、窓を閉めてまたクーラーをかけた。

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